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手のひらにのせた土と、小さな芽

TANE KOYOMI

土用どよう

季節と季節の、あいだ

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土用って、夏のうなぎの日のこと?

それは、夏の土用の中の「丑の日」。
土用そのものは、年に4回ある。

立春・立夏・立秋・立冬。
季節がはじまる日の前の、18日ほどが土用だ。※1

4回あわせると、およそ72日。
1年の、5分の1。

毎年、いつごろ?

太陽が空のどこにいるかで決まるので、毎年ほぼ同じころになる。
太陽の位置で決めるようになったのは、明治2年の暦から。※1

冬の土用 1月17日ごろ 〜 2月3日ごろ → 立春
春の土用 4月17日ごろ 〜 5月4日ごろ → 立夏
夏の土用 7月19日ごろ 〜 8月6日ごろ → 立秋
秋の土用 10月20日ごろ 〜 11月6日ごろ → 立冬

秋の土用の中には、霜降がまるごと入っている。※2

WHY

なぜ「土」?

季節を数えたら、ひとつ余った。

「土」は、どこから来た?

昔の中国では、世界を5つのもので読んだ。
木・火・土・金・水。「五行(ごぎょう)」と言う。

春は木、夏は火、秋は金、冬は水。
季節は4つ。土が、ひとつ余った。

そこで、それぞれの季節の終わりの5分の1を、土に渡した。
1年を360日として、1つの季節は90日。その5分の1が、18日だ。※1

HISTORY暦がこう作られた、という事実。
INTERPRETATION世界を五行で読む、という考え方。
この二つは、分けて置いておく。

「土用」という名前は?

もとは「土旺用事(どおうようじ)」。
土の気が盛んに働くとき、という意味だ。
いつの頃からか略されて、「土用」になったようだ。※3

日本でいちばん古い例は、1040年の日記『春記』の「依土用也(土用によるなり)」。※4

REST

土を休める

「やれ」ではなく「休め」の印。

土用は、土の神様が土に戻ってきているとき。
だから、農作業をしない、と思っている。

私は、土いじりと、海に行くことを控えている。
海の砂を荒らさないように。

TANE

土の神様って?

「土公神(どくじん)」と呼ばれてきた。
陰陽道(おんみょうどう)で、土をつかさどる神。

この神が土の中にいる時期に、土を動かすことを嫌った。それが土用だと言われてきた。※6

土公神は、季節で居場所を移すとも言われる。
春は竈(かまど)。
夏は門。
秋は井戸。
冬は庭。※6

昔の人は、本当に土を休ませた?

土をいじる作業を嫌う習わしがあり、農家にとっては大事な「厄日」だったようだ。※3
熊本の水俣地方でも、土いじりを嫌ったという記録がある。※5

土に埋めるお葬式まで、この間は延ばしたという。※4

平安時代からは、土地の神をしずめる祭り(いまの地鎮祭のもと)もあった。※6

どうしても土に触れたい日は?

「間日(まび)」という、例外の日がある。
土を動かしてもよい、とされてきた日だ。

春の土用 巳(み)・午(うま)・酉(とり)の日
夏の土用 卯(う)・辰(たつ)・申(さる)の日
秋の土用 未(ひつじ)・酉(とり)・亥(い)の日
冬の土用 寅(とら)・卯(う)・巳(み)の日

土の神が天に上る日だから、という説明がよく書かれている。
ただ、その古い出どころは、辞典をいくつ当たっても見つからなかった。※7

土用の中に、間日という休息日がある。
やりたいときは、その日に行う。

TANE

今年の間日は、カレンダーの「日の干支」で探せる。
十二支の日は、12日でひとめぐりする。

EAT & HANDS

食べる・手しごと

夏の話が多い。ほかの季節は、まだ余白がある。

夏の土用に、食べてきたものは?

丑の日に、「う」のつくもの。
うなぎ、瓜(うり)、牛の肉。
土用餅も。※5

江戸のはじめ(1639〜40年ごろ)の本にも、土用に餅をつく話が出てくる。※4

うなぎを広めたのは平賀源内、とよく言われる。
でも、その出どころは分かっていない。あとからできた「伝説」と見る本もある。※8

秋は「た」のつくもの、と聞いたけれど?

秋は「た」、冬は「ひ」、春は「い」のつくものを食べる。色は青・赤・白。
そういう話を、よく見かける。

辞典6つと、国立天文台、海上保安庁の暦の説明を見た。
どこにも書いていなかった。
いちばん古い出どころは、2008年の本だった。※9

昔からの習わしではなく、近ごろ広まった話のようだ。
決まりは無い。だから、季節のものを自分で選べる。

土用の手しごとは?

夏の土用には、衣や本を風に通す「土用干し」をしてきた。
薬草を入れたお風呂(丑湯)に入ることも。※5

秋の晴れた日の虫干しは、寒露のページに書いた。

梅を干すのも「土用干し」と呼ぶ。
ただ、辞典に梅の話は見つからなかった。

からだとは、どうつながる?

中国の古い医学の本『素問(そもん)』には、こう書いてある。
「脾(ひ)は土。四季それぞれに18日ずつ」。※10

いまの薬膳では、季節の変わり目の土用は、胃腸を休めるときと言われている。
冷たいものを控えて、消化しやすいものを、と。※17

TRADITIONどちらも、そう言われてきた、という伝統の話。
科学で確かめられたことではない。

WORLD

ほかの国と、海

同じ考え。ちがう数え方。

中国にも、土用はある?

ある。「土王用事」と書く。
古い暦の本には、「この日のあとは、土木を始めるのによくない」とある。※12

土を休める考えは、海を渡る前からあった。

韓国の「三伏(サムボク)」と同じ?

ちがう。
韓国の삼복(サムボク)=三伏は、夏のいちばん暑い3つの日。
夏至から数えて3番目の「庚(かのえ)」の日が、はじまり。※11

土用は「季節がはじまる前の18日」。三伏は「夏至から数える」。
同じ夏の暑い日を、別の物差しで決めている。

「土用波」って?

夏の土用のころ、海岸に打ち寄せる大波。
多くは、遠くの台風から届くうねりだ。※13

土用に海で泳ぐと丈夫になる、という言い伝えもある。
土地によって、海との付き合い方はさまざまだ。※5

MOUNTAINS & FORESTRY

山と、林業

木を伐る人たちにも、手を止める日がある。

山にも、休む日がある?

ある。「山の神の日」。
この日は山に入らない、と各地で言われてきた。※14

秋田のマタギ(山の猟師)は、12月12日。
金沢では12月9日。林業の人たちが山仕事を休み、道具の手入れをする。※14

岩手の遠野の森林組合は、いまも12月12日を「山へ入ってはいけない日」と書き、職員みんなで祈っている。
東京の檜原村の林業の会社は、1月17日。
昔は毎月17日で、「月に1度くらいは休もう、という意味合いもあったようです」と書いている。※20

土用とは別の日だ。
でも、人が手を止めて、山を休ませる日という点で、よく似ている。

林業の人は、土用に木を伐らない?

そう書いた記録は、見つからなかった。
辞典、林野庁、森林組合の資料を探した。※19

見つかったのは、春分と秋分の話だ。
鹿児島と熊本で、山で働く39人に聞いた調べがある。
「春分と秋分は、山の変わり目。山に入らない」
「この日は木を伐らない。刃物を使わない」※19

知っていたのは、ほとんどが60〜80代の人。
調べた人たちは、「途絶えている途中」と書いている。

木を伐るのは、いつ?

林業の人たちは、秋の彼岸から春の彼岸まで(9月の下旬〜3月の下旬)を「伐り時期」と呼んできた。
秋の土用は、その季節の中にある。※21

なぜ、その季節か。
鳥取の林業試験場が、同じ杉6本を7年測った。
幹の中の水は3月から増え、9月の下旬から3月までは少ないままだった。※21

でも、静岡の調べでは、月ごとに伐っても、はっきりした違いは出なかった。
満月と新月の差も無かった。
調べた場所によって、答えが分かれている。※21

どちらの調べにも共通するのは、虫のこと。
春から夏に伐った木は、虫に穴をあけられやすい。だから冬に伐ってきた、と和歌山の試験場は書く。※21

伐った木を、すぐ運ばない「葉枯らし」。くわしくは →

伐り倒した木を、枝と葉をつけたまま、山にしばらく置いておく。
葉が、幹の水を吸い出してくれる。
木が軽くなり、乾きやすくなる。

石川県の手引きでは、伐るのは3月の中〜下旬か、9〜10月ごろ。置くのは40〜50日ほど。※21

木を伐ったあと、何をした?

伐った株に、その木の梢(こずえ)を立てた。
「鳥総(とぶさ)立て」と言う。
山の神を祭るためだった。※22

万葉集にも、「鳥総立て 足柄山に 船木伐り」という歌がある。
奈良時代の人も、伐ったあとに、山へ何かを返していた。

山に入る道の入口で、山の神に「入らせてください」と祈る「山口祭」もあった。※22

山を休ませる決まりは、あった?

あった。
江戸時代の木曽では、100年ほど木を伐りすぎて、山の木が尽きかけた。
そこで尾張藩は、人が入れない山(留山)を決め、ヒノキなど5つの木を伐ることを禁じた。※23

「木一本、首一つ」と言われるほど、きびしい決まりだったという。※23

いまの林野庁の言葉は、「伐って、使って、植えて、育てる」。
苗木を植えてから使えるまで、40〜50年ほどかかる。※23

注連縄(しめなわ)は、辞典では「神さまの場所と外を分ける」「入ってはいけない」しるし。
注連縄で土地を「休ませる」と書いた資料は、まだ見つけていない。※15

これは、自然と共生して生きる、
八百万(やおよろず)の神が宿ると言った日本の精神が、
土の神を敬う行動だと感じている。

TANE

「八百万の神」は、古事記に出てくる言葉。数の限りなく多いこと。
江戸の学者・本居宣長は、鳥や獣、木や草、海や山など、畏れ多いものを「かみ」と呼ぶと書いた。※16

ALL YEAR

1年の表

4つの土用を、ひとつに。いちばん右は、あなたの欄。

土用次に来る季節昔からしてきたことあなたの支度
冬
1月17日ごろ〜
春(立春)土を休める春に向けて、何を始める?
春
4月17日ごろ〜
夏(立夏)土を休める夏に向けて、何を手放す?
夏
7月19日ごろ〜
秋(立秋)土を休める/衣や本の土用干し/「う」のつくもの秋に向けて、何を干す?
秋
10月20日ごろ〜
冬(立冬)土を休める冬に向けて、何を仕込む?

春・秋・冬の土用に、昔の台所で何をしていたか。
まだ調べきれていない。分かったら、ここに足していく。

TODAY

今日できること

土を休めて、次の季節の支度を、ひとつ。

  1. 1カレンダーで
    間日を 一つ 探す
  2. 2庭や鉢の土を
    触れずに 眺める
  3. 3次の季節の 支度を
    一つ 決める

NOT YET

まだ分からないこと

  • 間日に土の神が天に上る、という説明の、古い出どころ。
  • 秋の「た」、冬の「ひ」、春の「い」の話を、誰が、いつ言い始めたか。
  • 土用に種をまかない・耕さない、と書いた地域の記録。(紙の市町村史に当たる必要がある)
  • 春・秋・冬の土用に、昔の台所で何をしていたか。
  • 梅の土用干しの、古い出どころ。
出どころ(22件)
  1. ※1国立天文台 暦Wiki「雑節とは?」
  2. ※2国立天文台 暦要項(霜降は太陽黄経210度、秋の土用は207度から立冬225度の前まで)
  3. ※3海上保安庁「暦の注釈」(2015年の保存版)
  4. ※4コトバンク「土用」(精選版 日本国語大辞典)
  5. ※5コトバンク「土用」(世界大百科事典・日本大百科全書)
  6. ※6コトバンク「土公神」(精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉・世界大百科事典)
  7. ※7Wikipedia 日本語版「土用の間日」(出典の記載なし)。辞典には、天に上る話は無かった
  8. ※8Wikipedia 日本語版「土用の丑の日」(石川博編『鰻』2017 の解説)
  9. ※9Wikipedia 日本語版「土用」の出典 ──『12か月のきまりごと歳時記』(2008)/ダイヤ高齢社会研究財団 会報 No.90(2017)。辞典6つ(日本国語大辞典・日本大百科全書・世界大百科事典・マイペディア・ブリタニカ・大辞泉)に記載なし
  10. ※10『素問』太陰陽明論「脾者土也……各十八日寄治」(ウィキソース)
  11. ※11Wikipedia 韓国語版「복날」
  12. ※12『御定月令輯要』巻12「六月土王用事日後不宜興土工事」(中国語版ウィキソース)
  13. ※13コトバンク「土用波」(精選版 日本国語大辞典・海の事典)
  14. ※14コトバンク「山の神」(日本大百科全書)/秋田県「山の日情報 第6号」(2016)/金沢市「かなりん通信 6号」
  15. ※15コトバンク「注連縄」「地鎮祭」(精選版 日本国語大辞典・世界大百科事典)
  16. ※16コトバンク「八百万」「神」(精選版 日本国語大辞典・日本大百科全書。古事記・本居宣長『古事記伝』)
  17. ※17ウェザーニュース「土用」の解説(中医薬膳師 監修。公的な資料ではない)
  18. ※19林野庁 鹿児島森林管理署・鹿児島大学「林業の口伝」の調べ(2022〜23年。鹿児島・熊本の39人・口伝121件)。コトバンク「土用」の辞典・林野庁・森林組合の資料に、土用と林業を結ぶ記述は無かった
  19. ※20遠野地方森林組合「12月12日 山の神様の日」(2021)/東京チェンソーズ(檜原村)の記事(2024)
  20. ※21鳥取県林業試験場(スギ6本・2015〜2021年)/静岡県(2010)/和歌山県林業試験場(2023年度)/石川県『スギの葉枯らし材生産技術』(1993)
  21. ※22コトバンク「鳥総」(デジタル大辞泉。万葉集391)「山口祭」(世界大百科事典)
  22. ※23林野庁 中部森林管理局「木曽の森の歴史」(「俗に『木一本、首一つ』」)/林野庁「木づかい」/九州森林管理局