KNOWLEDGE
「衣服の周波数」のこと

リネンもウールも、5000。
その数字を、どこから来たのか たどってみた。
「リネンは周波数が高い」「化学繊維はゼロ」。
SNSや、リネンを売るお店の文章で、よく見かける話。
数字は、こう言われている。
人の体が100。リネンとウールが5000。ポリエステルは0。
TANEは、この数字で服を選ばない。
でも、消しもしない。
どこから来て、何が確かめられていて、何が確かめられていないのか。そこまで並べて、あとは読む人に渡す。
どんな話か
| もの | 言われている数字 |
|---|---|
| 人の体 | およそ 100 |
| リネン(亜麻) | 5000 |
| ウール | 5000 |
| オーガニックコットン | 100 |
| ふつうの綿 | およそ 70 |
| 絹 | 10 |
| レーヨン | 15 |
| ポリエステル・アクリル・ナイロン | 0 |
そして、こう続く。
「数字の高い布を着ると体にいい」「リネンとウールを一緒に着ると、打ち消し合ってゼロになる」。※1
出どころとして名前が出るのは、2003年、ハイディ・イエレン(Heidi Yellen)という人の「研究」。※2
確かめられていないこの表の数字は、「こう言われている」まで。TANEは健康の性質としては扱わない。理由は次の段。
数字は、どこから来たか

たどれる限り、たどった。
確かめられたこと
論文は、無い。
学術誌に載った研究も、同じ結果を出した別の人の調べも、見つからなかった。※2※3
残っているのは、2012年にイエレン本人が書いたとされるメールの文。
測ったのは技術者で、使ったのは「Ag-Environ machine」という装置。退職したテキサス州の大学の教授が、農作物の「固有の周波数」を測って収穫の時期を決めるために作った機械、と書かれている。※3
その装置の記録も、どう測ったかの説明も、見つからなかった。※3
そして、単位が無い。
同じ数字を、ある人は Hz(ヘルツ)と書き、ある人は mHz、ある人は Å(オングストローム。長さの単位)と書く。※2
単位が決まっていない数字は、合っているかどうかを確かめようがない。
羊毛と亜麻を、一緒に着てはいけない

「リネンとウールを一緒に着ると打ち消し合う」という話は、測った話ではない。
もとは、旧約聖書の決まり。二か所にある。※8
「羊毛と亜麻を一緒に織った服を着てはならない」(申命記 22章11節)
「亜麻と羊毛を混ぜた服を身につけてはならない」(レビ記 19章19節)
理由は、どちらにも書かれていない。
羊の毛と、畑の草。動物のものと植物のものを混ぜない、という決まりが、いまも守っている人のいる形で残っている。
5000の話は、この古い決まりの上に乗っている。
守られてきた決まりが、数字の顔をして現れた。そう読むと、この話の形が見えてくる。
HISTORY決まりがあったことは記録。理由は書かれていない。「動物と植物を混ぜない」はTANEの読み。
くわしくは → この話に、あとから付いた添え話
「ノーベル賞のオットー・ワールブルクが、人の体の周波数を見つけた」
ワールブルクが1931年に受けた賞は、細胞が酸素をどう使うかの研究。体の周波数の話は、彼の仕事の中に無い。※2※9
「周波数」って、何のこと?

周波数は、1秒間に何回くり返すかの数。単位はヘルツ(Hz)。※5
音なら、空気のふるえが1秒に何回か。光なら、波が1秒に何回か。
つまり周波数は、何かが揺れている・くり返しているときに決まる数。
机の上に置いた布に、ひとつの決まった周波数は無い。
布について物理で測れるのは、こういうもの。
| 測れるもの | 何が分かるか |
|---|---|
| どの光を吸うか・はね返すか | 赤外線の吸い方など。熱の出入りに関わる。ひとつの数ではなく、幅(スペクトル)で出る |
| 電気の通りにくさ | 繊維が水分を含むほど、電気を逃がしやすい※10 |
| こすったときの静電気 | 冬にパチッとくるあれ。水分をほとんど含まないポリエステルは、電気をためやすい※10 |
| 揺らしたときの振動 | 張り方・形で変わる。繊維に固有の「健康の数」ではない |
どれも測れる。でも、どれも「5000」とは結びつかない。
5000に単位が無いので、どの量の話なのかが決められないからだ。
リネンとウールが「違う」と感じる理由を、測れる数で

それでも、リネンやウールを着て「体が楽」と感じる人はいる。
その感じは、周波数ではなく、水と熱の数で語れる。
繊維が空気中の水分をどれだけ含むか(水分率)。
商取引で使う標準の値はこう。※6
| 繊維 | 水分率(%) |
|---|---|
| ウール | 13.6 |
| 亜麻(生) | 12.0 |
| 絹 | 11.0 |
| リネン(加工後) | 8.75 |
| 綿 | 8.5 |
| ナイロン | 4.5 |
| ポリエステル | 0.4 |
ウールと麻と絹は、水をよく含む。ポリエステルは、ほとんど含まない。
汗をかいたとき、吸って・放す繊維と、肌の上に水が残る繊維の違いは、ここに出る。
(この表は商取引用の標準の値。実際に測った平衡の値とは、ずれることがある。※6)
くわしくは → 「リネンはひんやりする」は、測るとどうか
触れた瞬間の冷たさ(接触冷温感・q-max)を測った2024年の研究がある。
亜麻だけの布は、織り方(平織・パナマ織・綾織)を変えても、値はほぼ同じだった。
麻(ヘンプ)を混ぜた布では、織り方で値が動き、平織の麻混がいちばん「ひんやり」した。※7
値を動かすのは、繊維の名前だけではない。織り方と、布の詰まり方。
「リネンは涼しい」は、汗の吸い方と放し方、織りの粗さの話として見るほうが近い。
違いは、ある。
でもそれは、Hz ではなく、水と熱の数で言える。
TANEの読み
「5000」は、確かめられていない。
だからTANEは、この数字で服を選ばないし、この数字で服を勧めない。
でも、数字の裏づけが無いことと、感覚が無いことは、別のこと。
リネンを着て楽だと感じる人の感覚は、その人のもの。
それを「気のせい」とも言わない。
数字を信じるのでも、笑うのでもなく、自分の肌で確かめる。
やってみる

同じ日に、リネンのシャツと、化学繊維のシャツを着くらべてみる。
汗をかいたあと、乾くまでの時間。肌に残る感じ。夜までの疲れ方。
数字ではなく、自分の肌で。
その答えは、5000より確かだ。
あなたの肌は、どう言っていますか?
次の問い
では、肌が「違う」と感じる理由は、どこにある?
→ 衣服とかぶれ ── 素材か、加工か
→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)
まだ、確かめられていないこと(5)
- 「Ag-Environ machine」という装置が実在したか。作った人の記録も、測り方の説明も見つかっていない
- 2012年のメールが、本当にイエレン本人の文か。写しが出回っているだけで、原本に当たれていない
- 静電気と繊維の水分の関係は、特許の文(経験で分かっている関係)まで。教科書の数値は見ていない
- リネンと綿を、同じ厚さ・同じ織りでそろえて「ひんやり」を比べた研究。見つかったのは亜麻と麻(ヘンプ)の比べだけ
- 申命記・レビ記の「羊毛と亜麻を混ぜない」決まりの理由。書かれていない。いまも守る人がいることの出どころも、まだ引いていない
分かったら、ここに足していく。
出どころ(10)
- ※1 「Dr. Heidi Yellen and her findings on the frequency study」(個人ブログ。広まっている数字の形そのまま。製品の紹介を含む) 見る(2026-10-30 確認)
- ※2 Myrah Penaloza「Does Linen Have a Frequency? The 5,000 Number, Where It Came From, and What Is True」(リネンを売る人による、疑う側の整理。論文なし・単位の混同・装置・ワールブルクの誤り) 見る(2026-10-30 確認)
- ※3 「Scientific Details of the Linen Frequency Study」(2012年のメールの写しを載せたブログ。Ag-Environ machine・農作物の装置の記述) 見る(2026-10-30 確認・原本には当たれていない)
- ※4 Life-Giving Linen「Scientific Details of the Linen Frequency Study」(売り手側の文書。2024年8月のファイル) 見る(2026-10-30 確認)
- ※5 国際度量衡局(BIPM)「SI Brochure」── ヘルツの定義(1秒あたりの回数) 見る(2026-10-30 確認)
- ※6 ASTM D1909「Standard Tables of Commercial Moisture Regains for Textile Fibers」(商取引用の水分率の標準表。1996年版の写し) 見る(2026-10-30 確認)
- ※7 Vasile, S. ほか「Effect of Weave and Weft Type on Mechanical and Comfort Properties of Hemp–Linen Fabrics」Materials 17(7) 1650, 2024(亜麻と麻の6枚の布。q-max 845〜961 W/m²。織り方の影響) 見る(2026-10-30 確認)
- ※8 旧約聖書 申命記 22章11節 "Thou shalt not wear a garment of divers sorts, as of woollen and linen together." 見る/レビ記 19章19節 "neither shall a garment mingled of linen and woollen come upon thee." 見る(どちらも欽定訳・King James Version。日本語は TANE の訳。2026-10-30 確認)
- ※9 ノーベル財団「Otto Warburg – Facts」(1931年 生理学・医学賞。呼吸酵素の研究) 見る(2026-10-30 確認)
- ※10 米国特許 US4484926「Antistatic fabrics incorporating specialty textile fibers having high moisture regain」1984年(水分率の低い繊維=ポリエステル 0.4% などは静電気をためやすく、水分を含む繊維を混ぜると電気を逃がす、という経験的な関係) 見る(2026-10-30 確認)