CLOTHING
その服は、何からできている?

植物か、動物か。木を溶かしたものか。石油か。
「天然」「化学」の二つではなく、三つに分けると見えてくる。
服の札には、必ず繊維の名前が書いてある。綿、麻、毛、絹、レーヨン、ポリエステル。
でも「天然繊維」と「化学繊維」の二つに分けると、まん中の大事な一群が消える。
植物から作るのに、天然繊維ではないもの。レーヨンや、竹の服がそれ。
三つに分ける
| 分け方 | 何から、どう作る / 札の名前 |
|---|---|
| ① 天然繊維 | 植物や動物から取った繊維を、その形のまま糸にする 植物:綿、麻(亜麻=リネン、苧麻=ラミー)/動物:毛(羊毛、モヘヤ、アルパカ、らくだ、カシミヤ、アンゴラ)、絹※1 |
| ② 再生・半合成 | 木材パルプなどのセルロースを薬で溶かして、糸に作り直す。レーヨンは、セルロースを苛性ソーダと二硫化炭素で処理し、硫酸の浴の中へ押し出して糸にする。キュプラは銅アンモニアの液に溶かす※2。アセテートはセルロースを酢酸で化学変化させる(半合成) 札の名前:レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、トリアセテート※1 |
| ③ 合成繊維 | 石油から作った高分子を、溶かして糸にする。石油のナフサを分けてキシレンやエチレンを取り、ポリエステルはテレフタル酸とエチレングリコールをつないだもの(PET)。ペットボトルと同じ樹脂※3 札の名前:ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリ乳酸 など※1 |
日本の札の決まり(家庭用品品質表示法)も、この順で分けている。植物繊維、動物繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維。※1
「麻」と書けるのは、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)だけ。ヘンプやジュートは「植物繊維(ヘンプ)」のように書く。
「竹の服」は、竹の繊維ではない
植物から作る = 天然繊維、ではない
「バンブー」「竹繊維」と売られている服のほとんどは、竹を原料にしたレーヨン。
竹を薬で溶かして、糸に作り直したもの。アメリカの連邦取引委員会(FTC)は2009年に、こう書いた。「ほとんど、いや すべてが、本当はレーヨン」「できあがったレーヨンに、元の植物の跡は残っていない」。※4
だから正しい札は「竹から作ったレーヨン(rayon made from bamboo)」。
竹の持つ抗菌の性質が残っている、という売り文句にも、確かめた証拠が要る、とFTCは言う。※4
竹の茎をそのままほぐして糸にした布は、別にある。でも、ほとんど出回っていない。
同じことが、「木から作った」「とうもろこしから作った」にも言える。
原料が植物でも、溶かして作り直した時点で、それはもう木でも竹でもない。レーヨン、リヨセル、ポリ乳酸。名前で見る。
「何から」だけでなく、
「どう作ったか」で、三つに分かれる。
化学繊維は、いつから肌に触れている?
| 年 | 何が |
|---|---|
| 1884年 | フランスのシャルドンネ伯が、硝化法のレーヨン(人造絹糸)を作る。燃えやすく、「姑の絹」とあだ名がついた※5※6 |
| 1891年 | 英国のクロス・ビバン・ビードルが、ビスコース法のレーヨンを発明(特許は1892年とする資料もある)※5※6 |
| 1918年 | 日本で、ビスコース法の人造絹糸の本格生産が始まる(帝国人造絹糸・米沢)※5 |
| 1924年 | 「人造絹糸」が「レーヨン」と呼ばれるようになる※6 |
| 1935年 | アメリカのデュポン社、カロザースがナイロン66を発明。石油から作った、最初の服の繊維※5 |
| 1940年5月 | ナイロンのストッキングが、アメリカ全国で発売。初日に80万足※7 |
| 1941年 | 英国でポリエステルの製造に成功※5 |
| 1953年 | デュポン社がポリエステル繊維の工業生産を始める。1958年、日本で「テトロン」※5 |
ナイロンのストッキングが店に並んだ1940年から数えると、石油の繊維が肌に触れるようになって、まだ90年足らず。
レーヨンから数えても140年ほど。綿や麻や毛の、何千年とは、長さが違う。
ただし「1940年から急に服の問題が始まった」とは言えない。染め、樹脂、洗い方、どれも別の歴史を持っている。→ 服の加工のこと
いま、世界の繊維は何でできている?
2024年に作られた繊維、1億3,200万トン
59%
が、ポリエステル(7,800万トン)。
綿は 19%(2,450万トン)。木を溶かして作る再生繊維は 6%。
羊毛・モヘア・カシミヤ・アルパカを合わせて、1%に満たない。※8
2025年は、1億3,900万トン。増えた分のほとんどが、石油から作る新しい繊維だった。※9
これは服だけでなく、カーテンもタイヤのコードも含めた、繊維ぜんぶの数字。「服の59%がポリエステル」ではない。
数えているのは Textile Exchange という、繊維業界の団体。毎年の報告書から。※8
TANEの読み
三つに分けるのは、どれが良いかを決めるためではない。
「天然だから安全」「化学だから悪い」のどちらも、ここでは言わない。
天然繊維も、布になるまでに薬を通る。化学繊維には、速く乾く・丈夫・安い、という理由で選ばれている事実がある。
違いは、別のところにある。水をどれだけ含むか。→ 「衣服の周波数」のこと(水分率の表)
洗ったとき、何が水に流れていくか。土に戻るか、戻らないか。
三つに分けると、その違いが、札の名前から読めるようになる。
やってみる
手持ちの服を10枚、札を裏返す。
植物・動物、作り直した繊維、石油。三つの山に分けてみる。
どの山が多かったか。それが、いまの自分の肌に触れているものの、答え。
札の名前が読めると、
一枚の服が、違って見える。
次の問い
では、同じ「綿100%」でも、加工はどうなっている?
→ コットン100%なら、加工も天然?
→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)
まだ、確かめられていないこと(4)
- リヨセル(木のセルロースを別の溶媒で溶かす再生繊維)の作り方と、溶媒の回収率。総説のページが開けなかった
- ビスコース法の発明の年。業界の年表は1891年、英国の博物館の記録は1892年(特許)
- 日本で「竹の服」がどう表示されているか(「再生繊維(竹)」か「レーヨン」か)。実物で確かめていない
- 2025年の繊維生産のポリエステルの割合。2026年の報告書そのものが開けなかった(2024年の59%まで)
分かったら、ここに足していく。
出どころ(9)
- ※1 消費者庁「繊維製品の表示 ── 繊維の名称を示す用語(指定用語)」(植物繊維・動物繊維・再生繊維・半合成繊維・合成繊維の分け方と名前) 見る(2026-10-30 確認)
- ※2 コトバンク「再生繊維」(日本大百科全書:繊維素を水酸化ナトリウムと二硫化炭素で処理したものを硫酸浴中に紡糸するビスコースレーヨン/銅アンモニア溶液に溶かすキュプラ) 見る(2026-10-30 確認)
- ※3 日本化学繊維協会「化学繊維の種類」「化学繊維の製造工程」(4つの分類。ポリエステル=テレフタル酸とエチレングリコール。ナフサから。業界の団体) 見る/製造工程(2026-10-30 確認)
- ※4 米国連邦取引委員会(FTC)「How to Avoid Bamboozling Your Customers」2009年8月(竹の繊維製品のほとんどはレーヨン。元の植物の跡は残らない。"rayon made from bamboo" と書く) 見る(2026-10-30 確認)
- ※5 日本化学繊維協会「化学繊維の歴史」(1884 シャルドンネ/1891 ビスコース法/1918 米沢/1935 ナイロン66/1939 ストッキング発売/1941 ポリエステル(英)/1953 デュポン工業生産/1958 テトロン) 見る(2026-10-30 確認)
- ※6 Joe Schwarcz「What is Rayon?」McGill University Office for Science and Society, 2021-11-19(シャルドンネの人造絹糸と燃えやすさ/1892年の二硫化炭素の処理/1924年に「レーヨン」の名) 見る/Science Museum Group「Cross & Bevan」(1892年 ビスコースの特許) 見る(2026-10-30 確認)
- ※7 Harry Sherrin「Nylon Stockings: The Innovation Behind a Textiles Revolution」History Hit, 2022-04-29(1939年ニューヨーク万博/1940年5月15日 全米発売・初日80万足/戦時中はパラシュートへ) 見る(2026-10-30 確認)
- ※8 Textile Exchange「Materials Market Report 2025」(2024年 1億3,200万トン・ポリエステル59%=7,800万トン・綿19%=2,450万トン・再生セルロース6%・毛は1%未満)── EU Transition Pathway for Textiles のまとめから 見る(2026-10-30 確認)
- ※9 Just Style「Virgin fossil-based fibres drive record global production」2026-10-02(2025年 1億3,900万トン。石油由来の新しい繊維が8,100万→8,600万トン) 見る(2026-10-30 確認)