CLOTHING
服の加工のこと

「天然100%」は、原料の札。
加工の札ではない。
服の札を裏返すと、「綿100%」「ウール100%」と書いてある。
それは何でできているかの答え。
でも服は、原料のあとに、たくさんの手を通っている。
煮て、白くして、染めて、柔らかくして、しわを防いで、縮まないようにして。
そのどう作られたかは、札に書かなくてよい決まりになっている。※13
このページは、その「どう」の部分を並べたもの。
何を使い、何が残り、何が残らないか。出どころつきで。
札に書いてあること、書いていないこと
日本の決まり(家庭用品品質表示法)で、服に必ず書くのは二つ。
繊維の組成(何が何%か)と、洗濯表示。※13
染めに何を使ったか、柔らかくするのに何を付けたか、しわ防止の樹脂を使ったか。
これは書かなくてよい。書くときは、売り文句として書く。
「ウォッシャブル」「形態安定」「ノーアイロン」「ふんわり加工」「抗菌防臭」。
「綿100%」は、原料の話。
加工は、札の外にある。
一枚の服が通る道
原料(植物・動物・木・石油)→ 繊維を取り出す → 糸 → 織る・編む → 煮て、白くする → 染める・仕上げる → 縫う → 着る → 洗う・直す → 手放す
太字の二つの段で、薬剤を使う。
ここで大事なのは、使った薬剤が「洗い流される」のか、「繊維に残すために付ける」のか、という違い。
使ったからといって、同じ量が服に残っているわけではない。逆に、残すことが目的の加工もある。
加工の一覧 ── 何のため、何を使い、残るのか
| 加工 | 何のため / 何を使う / 服に残るか |
|---|---|
| 精練(煮る) | 綿のロウや種のかす、麻のガムを落とす 苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、酵素 残らない。中和して洗う※11 |
| 漂白 | 白くする 過酸化水素が主。麻は亜塩素酸ナトリウムも 残らない。繊維の強さが落ちることはある※4 |
| 蛍光増白 | 青白く見せる スチルベン系など 残る(残すのが目的) |
| マーセライズ | 光沢、染まりやすく、強く(シルケットとも) 濃い苛性ソーダ(1844年、英国) 残らない。繊維の形が変わる※11 |
| 液体アンモニア | 柔らかく、しわになりにくく 液体アンモニア 残らない。繊維をふくらませる※11 |
| 柔軟(機械) | ほぐす、肌ざわり もむ、たたく、タンブラー 何も残らない |
| 柔軟(酵素) | 毛羽と毛玉を減らし、なめらかに セルラーゼ 酵素は洗い流す。やりすぎると強さが落ちる※9 |
| 柔軟(薬剤) | なめらかさ カチオン系(第四級アンモニウム)、アミノ変性シリコーン 残る(残すのが目的)。洗うと一部落ちる※10 |
| 防しわ・形態安定 | アイロンの手間を減らす DMDHEU などの樹脂 残る。一部からホルムアルデヒドが出る。洗うと減る※5 |
| 染め | 色 反応染料、アゾ染料、分散染料、インディゴ、天然染料+媒染 残る(それが染め)。結合しなかった分は洗い流す |
| ウールの防縮 | 洗濯機で洗える 塩素+樹脂(Hercosett)。別法もある 残る(膜)→ ウールが縮まない理由 |
| 防虫(ウール) | 虫食いを防ぐ ペルメトリンなど 残る(残すのが目的)※15 |
| 撥水・防汚 | 水や油をはじく フッ素系(PFAS)、非フッ素系 残る。種類で違う |
| 抗菌・防臭 | においを防ぐ 銀系、第四級アンモニウム系など 残る(残すのが目的) |
「残らない」の加工も、工場の外へは出ていく。排水の話は別のページで。
柔らかさは、どうやって作る?
新品の服が、やけに柔らかいことがある。
柔らかくする方法は、四つある。※9※10※11
| 方法 | 何をする | 残るか |
|---|---|---|
| ① 機械 | もむ、たたく、石と一緒に洗う(ストーンウォッシュ) | 残らない |
| ② 酵素 | セルラーゼで表面の毛羽を溶かし、洗いで落とす(バイオポリッシング) | 酵素は洗い流す |
| ③ 薬剤の柔軟剤 | カチオン系やシリコーンを繊維の表面に付けて、すべらせる | 残る。吸水が落ちる |
| ④ アルカリ・アンモニア | 苛性ソーダや液体アンモニアで繊維をふくらませ、形を変える | 薬剤は残らない |
家で使う柔軟剤と同じ系統(カチオン系・シリコーン)が、売る前にもう付いていることがある。※10
「市場でいちばん使われる柔軟剤はアミノ変性シリコーン」と業界の総説は書く。なめらかで、洗濯に耐える。そのぶん水を吸いにくくなる。
新品が柔らかい理由は一つではない。酵素かもしれないし、織りかもしれないし、柔軟剤かもしれない。
一度洗うと、落ちる分がある。吸水が戻ることもある。
くわしくは → 「ヘンプは苛性ソーダで柔らかくする」の話
麻(ヘンプ)の繊維は、ペクチンやリグニンというガムで束ねられている。
これを取って1本ずつにほぐす「脱ガム」で、工業では薄い硫酸で前処理してからアルカリで2回煮る。別法では苛性ソーダに硫酸マグネシウムと過酸化水素を足し、約120℃で45分。※12
ただし、苛性ソーダはヘンプだけの話ではない。綿の精練でも、マーセライズでも使う。
そして昔の越後上布も、糸を灰汁(木の灰の上澄み)で煮た。灰汁もアルカリ。※16
「強アルカリを使う」は、今も昔も、植物の繊維を布にする道の途中にある。
しわになりにくい服は、何が入っている?
「形態安定」「ノーアイロン」「防しわ」。
これは樹脂加工。尿素やメラミン系の樹脂を布にしみこませ、繊維の分子どうしをつなぐ。※5
ホルムアルデヒドのこと
主流の樹脂(DMDHEU)は、ホルムアルデヒド・グリオキザール・尿素から作る。
加工した布から、ホルムアルデヒドが少しずつ出る。※5
だから、日本には法律の基準がある(家庭用品規制法)。
生後24か月以内の乳幼児用は、16ppm以下(おしめ・よだれかけ・下着・寝衣・外衣・寝具など)。
それ以外の下着・寝衣・手袋・靴下は、75ppm以下。※6
ホルムアルデヒドを出さない樹脂(グリオキザール系)や、残りの少ない樹脂も増えた。東京都は「開発され、使用されています」と書く。※7
ただし、出さない型の樹脂にも、接触アレルギーの報告はある。※17
洗うと減る。洗い流せる分のホルムアルデヒドがある。新しい服を一度洗ってから着るのは、ここに効く。※5
染めのこと
| 染料 | 何に / 知っておくこと |
|---|---|
| 反応染料 | 綿・麻・レーヨン(主流) 繊維と結合する。結合しなかった分は洗い流す。残ると色落ち・移染 |
| アゾ染料(一部) | 綿・麻・革 一部は壊れると芳香族アミン(発がん性のあるもの)を出す。日本は2016年4月から、24物質を 30µg/g で規制※8。すべてのアゾ染料が危ないという意味ではない |
| 分散染料 | ポリエステル・ナイロン・アセテート(化学繊維) 衣服のかぶれの、いちばんの原因。綿・麻・ウールには使わない※17 |
| インディゴ・硫化 | デニム 洗うと落ちる(それが風合い)。還元剤は排水の話 |
| 天然染料+媒染 | 木綿・絹・ウール みょうばん・鉄は昔からの媒染。天然だから無害、とは限らない。ウールの黒・紺のクロム媒染は六価クロム※18 |
体に、何が起きる?
ここは、分けて考える。
①服に入っている → ②汗や摩擦で移る → ③皮膚から入る → ④体に作用する。
どこまで確かめられているかは、物質ごとに違う。「入っている」と「病気になる」は、別の段。
いちばん確かめられているのは、かぶれ(接触皮膚炎)。
皮膚科の調べが、くり返し挙げるもの
①化学繊維の分散染料。②樹脂加工のホルムアルデヒドとメラミン樹脂。※17
アメリカのメイヨー・クリニックで、染料や樹脂のかぶれが疑われた671人を調べたら、約3分の1にアレルギーの反応があった。メラミンホルムアルデヒドは8%で、分散染料 Disperse Blue 124 に次いで2番目。
これは「疑われた人」の中の割合。ふつうに服を着る人全体の割合ではない。※17
「ふつうの検査(標準パッチテスト)では、染料のアレルギーは見つからないことが多い。本人の服で検査するのが確実」とも書く。
繊維そのもの(綿・麻・ウール)は、チクチクやこすれの刺激が主。
どこがかゆいか(わき、腰、襟、ゴム、プリントの裏)、汗、縫い目、洗剤。原因は一つに決めないで見る。
くり返すなら、皮膚科でパッチテストを相談するのが近道。
法律が見ているもの、見ていないもの
日本の「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(家庭用品規制法)が、服について決めているのは、これ。※6
| 物質 | 何の加工 / 基準 |
|---|---|
| ホルムアルデヒド | 樹脂(防しわ・防縮) 乳幼児用 16ppm以下/下着・寝衣・手袋・靴下 75ppm以下 |
| アゾ化合物(一部) | 染料。特定芳香族アミンを生じるもの 30µg/g 以下(2016年4月〜) |
| ディルドリン・DTTB | 防虫(古い薬剤) 30µg/g 以下 |
| APO・TDBPP・BDBPP | 防炎 検出せず |
| 有機水銀・有機錫 | 防菌・防かび(トリフェニル錫・トリブチル錫) 検出せず |
この法律の一覧に無いもの:いまの防虫剤(ペルメトリン)、カチオン系・シリコーンの柔軟剤、防縮ウールの樹脂、蛍光増白剤、抗菌剤、撥水剤。
別の法律や、EUの決まり、業界の基準が見ているものもある。「見ていない」ではなく、「この一覧には無い」。
くわしくは → 認証は、何を見ているか
| 認証 | 見るもの / 気をつけること |
|---|---|
GOTS | 作る途中を見る。オーガニックの原料。塩素の漂白・ホルムアルデヒドの樹脂・アンモニアは禁止。仕上げは機械か熱だけ※14 薬を「ぜんぶ使わない」のではない。使っていいと決めた染料や薬は使う |
OEKO-TEX | できた服に残っているものを測る(STANDARD 100)。肌に近いものほど厳しい どう作ったかは見ない。塩素で縮まないようにしたウールでも、残っている量が決めた数より少なければ通る |
bluesign | 工場に入れる前の薬と、工場から出す水を見る 着る人より、工場のしくみ。印の名前は2026年から bluepass |
昔は、どうやっていた?
同じことを、薬を使わずにやっていた方法が、日本にある。
| いまの加工 | 昔の方法 |
|---|---|
| アルカリで煮る | 灰汁で煮る。越後上布の糸は、灰汁で精練して水で洗った。灰汁もアルカリ※16 |
| 漂白 | 雪晒し。2月の後半から3月、晴れた日に雪の上へ布を広げる。20日ほど。雪が溶けて蒸発するときのオゾンで白くなる、と説明される※16 |
| 柔らかくする | 砧打ち。宮古上布では、糊付けした反物を樫の台に置き、3kgの木槌で3〜4時間たたく。しなやかさと艶が出る※19 |
| 繊維をほぐす | 水や露に漬ける。微生物にガムを食べさせる。時間はかかる |
昔の方法が「薬ゼロで安全」というわけでもない。手間と、時間と、水と、人の労働がかかっている。
でも、「化学物質を使うのは今だけ」ではないことと、「薬剤を残さずに同じ結果を出す道があった」ことの両方が、ここから見える。
TANEの読み
加工は、悪者ではない。
防縮のおかげで洗濯機で洗える人がいる。形態安定のおかげでアイロンの時間が戻ってくる人がいる。
TANEが見ているのは、札に書いていないものを、自分で見られるか。
「天然100%」で安心して終わるか、その先の「どう作られたか」まで見るか。
見極めポイント ── 札と、体で
① 札の加工の言葉を読む。「ウォッシャブル」「防縮」「形態安定」「ノーアイロン」「抗菌防臭」「ふんわり」。これは加工が入っている印。
② 「無漂白」「生成り」は、漂白と蛍光増白を通っていない印。
③ 認証の意味を知っておく。
GOTS は作る途中、
OEKO-TEX は残っているもの。→ 印の読み方
④ 新しい服は、一度洗ってから着る。洗い流せるものが落ちる。
⑤ 新品が「やけに柔らかい」「やけに白い」「やけにしわがない」は、その理由を一度考える。
「何でできているか」の次に、
「どう作られたか」。
次の問い
では、加工の少ない服は、どう見分ける?
→ 衣服の認証、何を見ればいい?
ほかに → ウールが縮まないのには、理由がある/「衣服の周波数」のこと
→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)
まだ、確かめられていないこと(6)
- カチオン系・シリコーンの柔軟剤が、肌にどう作用するか。「肌にやさしいとされる」までしか資料が無い
- 日本で売られているリネンの服に、形態安定の樹脂加工がどれくらいあるか
- 綿・麻・ウールの繊維そのものへのアレルギーが、どれくらい稀か。教科書は「刺激が主」までしか言わない
- 雪晒しの「オゾンで白くなる」は、工芸の説明にあるが、測った資料は見ていない
- 砧打ちが、麻や木綿の暮らしの中でどう行われたか(宮古上布の例だけ)
- EUの決まり(REACH 第72項・ホルムアルデヒド 75mg/kg)の施行日。条文で確かめていない
分かったら、ここに足していく。
出どころ(19)
- ※1 Hassan, M.M. & Carr, C.M.「A review of the sustainable methods in imparting shrink resistance to wool fabrics」Journal of Advanced Research 18 (2019) 見る(2026-10-30 確認)
- ※4 Indian Journal of Fibre & Textile Research(亜麻の不純物と過酸化水素の漂白) 見る(2026-10-30 確認)
- ※5 日比暉「綿の形態安定加工」繊維と工業 50(10) 1994 見る/米国特許 US5352372A(低ホルマリン樹脂) 見る(2026-10-30 確認)
- ※6 東京都保健医療局「ホルムアルデヒドの規制」 見る/家庭用品規制法の有害物質の一覧(2017年7月時点のまとめ) 見る(2026-10-30 確認)
- ※7 東京都保健医療局「ホルムアルデヒドを家庭用品に使用するわけ」 見る(2026-10-30 確認)
- ※8 厚生労働省 薬生化発0222第1号(2016年2月22日)特定芳香族アミンを生成するアゾ化合物 見る/大阪健康安全基盤研究所「平成28年4月1日より…規制がはじまりました」 見る(2026-10-30 確認)
- ※9 JTATM(セルラーゼのバイオポリッシング) 見る(2026-10-30 確認)
- ※10 「Modifications of Textile Materials with Functional Silanes, Liquid Silicone Softeners, and Silicone Rubbers—A Review」 見る/米国特許 US4281196(第四級アンモニウム柔軟剤) 見る(2026-10-30 確認)
- ※11 繊研新聞「液体アンモニア加工」 見る/コトバンク「マーセリゼーション」 見る(2026-10-30 確認)
- ※12 「Comparative Analysis of Alkaline and Enzymatic Degumming Process of Hemp Fibers」 見る/「Optimization of Alkaline Degumming Process of Hemp Fibers」Journal of Natural Fibers 見る/従来法(硫酸の前処理+アルカリ2回) 見る(2026-10-30 確認)
- ※13 消費者庁「家庭用品品質表示法」(繊維製品の表示=組成と洗濯表示) 見る(2026-10-30 確認)
- ※14 GOTS Round Table USA(塩素漂白禁止・仕上げは機械か熱のみ) 見る/OEKO-TEX Standard 100 見る(2026-10-30 確認)
- ※15 SGS「Insect-resist treatments: permethrin on scoured wool」 見る(2026-10-30 確認)
- ※16 雪国観光圏「越後上布」 見る/iroai.jp「越後上布の技法と雪晒し」 見る/南魚沼市「小千谷縮・越後上布」 見る(2026-10-30 確認)
- ※17 Reich & Warshaw「Allergic Contact Dermatitis from Formaldehyde Textile Resins」Dermatitis 2010 見る/Wentworth ほか「Patch Testing With Textile Allergens: The Mayo Clinic Experience」Dermatitis 2012 見る/Malinauskiene ほか「Contact allergy from disperse dyes in textiles – a review」Contact Dermatitis 2013 見る/グリオキザール樹脂のアレルギー 見る(2026-10-30 確認)
- ※18 Archroma「Lanasol」(クロム染料の代わり。メーカーの資料) 見る/米国特許 US4670017(クロムの排水) 見る(2026-10-30 確認)
- ※19 銀座もとじ「宮古上布」(砧打ち) 見る(2026-10-30 確認)
番号は正本(10_Content/_調べ/衣服の加工)の番号に合わせてある。欠けている番号は、別のページで使う出どころ。
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