CLOTHING
ウールが縮まないのには、理由がある

同じ「ウール100%」なのに、
縮むセーターと、縮まないセーターがある。
洗濯機で洗っても平気なセーターと、一度で子ども用になってしまうセーター。
札はどちらも「ウール100%」。
違いは、毛の表面に加工があるかないか。
このページは、その加工に何を使い、何が残り、体にどうなのか、分かっていることと分かっていないことを分けて並べたもの。
まず、なぜ縮むのか
ウールの毛の表面は、うろこ(スケール)で覆われている。
水にぬれて、もまれると、うろこどうしが噛み合って、毛が絡まる。これがフェルト化。一度絡まると、戻らない。※1
水の温度の急な変化と、石けんのようなアルカリと、もむ動きが、それを進める。
だから加工していないウールは、ぬるま湯で、もまずに、平らに干す。→ 縮んだウールは、戻せる?(クエン酸のこと)
縮まない加工は、何をしている?
世界でいちばん使われている方法は、塩素で表面を削り、樹脂の膜をかける。
オーストラリアの公的な研究機関(CSIRO)が開発した。防縮ウールの約75%がこの方法、と業界の資料は書く。※1※2
| 段 | 何をする / 何を使う / 毛に何が起きる |
|---|---|
| ① 塩素 | 次亜塩素酸ナトリウムの液に通す。残った塩素は別の薬で消す(塩素ガスや DCCA を使う変形もある) → 表面の脂の層が取れ、うろこの縁が削れる |
| ② 樹脂の膜 | 毛の重さの1〜2%の樹脂と、少しのシリコーンを付ける。樹脂は Hercosett 125(ポリアミドにエピクロロヒドリンを反応させたもの) → うろこの隙間が膜で埋まり、噛み合わなくなる |
結果:5回洗っても、縮みは0.5%。※1
学術の総説も「いちばん効いて、長持ちして、いちばん安い」と認めている。
膜は、残る。残すのが目的だから。
そのぶん、毛の強さが少し落ち、黄ばみやすくなり、重さが約2%減り、手ざわりが変わる。※1
縮まないウールは、
うろこを削って、膜をかけたウール。
体には、どうなのか
ここがいちばん聞かれるところ。
分かっていることと、分かっていないことを分ける。
| 言われていること | どこまで確か |
|---|---|
| 排水の AOX | 工場の排水に、有機塩素化合物(AOX)が出る。確か。塩素剤と樹脂の両方から出る。排水の基準を超える国では使えない。総説はこれを「環境に有害」と書く※1 |
| 塩素ガス | 塩素ガスと、クロラミン。確か。ただし工場の話。塩素系の処理は塩素ガスを放ち、残った塩素がアンモニアと反応してクロラミンになる※1 |
| 着る人への害 | 確かめた研究が無い。総説は着る人の健康に触れていない。皮膚科の文献にも、防縮の樹脂を原因とする報告は見つからなかった。「ある」とも「ない」とも、測った人がいない※1※3 |
| 「変異原」の話 | 「エピクロロヒドリンは変異原」。原料の話。エピクロロヒドリンそのものに変異原性があることは知られている。でも服に残るのは反応して結合した樹脂で、服の中の残留量を測った資料は見つからなかった。強く言っているのはアルパカを売る側、「樹脂は無毒」と言うのはウール業界側※3 |
| 膜のかけら | 膜がマイクロプラスチックになる? 業界の調べだけ。ウール生産者の団体が引く調べは「樹脂から出る証拠は無い」「海水で分解した」。独立の調べは見つからなかった。洗濯で膜が剥がれて出るかは、誰も測っていない※4 |
誰が言っているか
この話は、立場で言うことが変わる。
総説の著者はニュージーランドの国の研究機関(ウール産業と近い)とリーズ大学。「利益相反なし」と書いてある。
「マイクロプラスチックにならない」と言うのはウール生産者の団体。売る側。
「変異原」と強く言うのはアルパカの売り手。防縮ウールを悪く言うと得をする。
着る人への害については、どちらの側も測っていない。だからTANEも、言い切らない。
塩素を使わない方法は、ある?
| 方法 | いまの状態 |
|---|---|
| オゾン+樹脂 | 塩素なし。効き目は塩素法に近い。高い。Patagonia などが使う※1 |
| 酵素(プロテアーゼ) | 遅い・結果が読みにくい・毛を傷めることがある。結局 膜が要る |
| プラズマ | 毛を傷める。「これから」と総説は読む |
| 樹脂だけ(塩素なし) | 膜が毛に付かず、長持ちしない |
| 加工しない | 手で洗って、平らに干す。昔からの方法 |
防縮のほかにも、ウールは手を通っている
| 加工 | 何を使う / 残るか |
|---|---|
| 洗毛 | 洗剤・アルカリで脂と汚れを落とす 残らない |
| 炭化 | 硫酸に通して焼き、草の実を炭にして落とす。中和して漂白※5 中和して落とす。毛は傷む |
| 防虫 | ペルメトリン(1980年ごろから主流)※5 残すのが目的。日本の法律が規制しているのは古い防虫剤だけ |
| クロム染料 | 黒・紺を濃くするために、六価クロムで媒染※6 染めた毛と排水に残ることがある。金属を使わない染料に替わりつつある |
見分け方と、手入れの違い
札に「加工あり」とは書かない決まりなので、言葉で見る。
「ウォッシャブル」「防縮」「スーパーウォッシュ」「machine washable」「洗濯機で洗える」。これが膜のあるウールの印。
| 加工していないウール | 防縮のウール | |
|---|---|---|
| うろこ | そのまま | 縁を削って、膜で覆う |
| 洗い方 | ぬるま湯・もまない・平干し | 札のとおり。洗濯機で洗えるものが多い |
| 縮み | 条件がそろうと一度で縮む | ほとんど縮まない |
| 手ざわり | その毛のまま | なめらか。膜とシリコーンの分 |
| 風を通す・陰干し | 効く(霜降「冬の服を1枚」) | 同じ |
どちらが良い、ではない。違いを知って、札を読んで、自分で選ぶ。
TANEの読み
縮むセーターと縮まないセーターがあるのは、不思議ではなかった。
片方は、毛の表面を削って膜をかけてある。それだけのこと。
加工していないウールは、手がかかる。
でも、手をかけた分だけ、毛のことが分かる。縮ませて初めて、うろこのことを知る。
やってみる
手持ちのウールの札を、ぜんぶ裏返してみる。
「ウォッシャブル」「防縮」のあるものと、ないもの。どれが縮んで、どれが縮まなかったか、思い出してみる。
加工していないものは、ぬるま湯で、もまずに、平らに干す。
風を通すのは、どちらにも効く。
同じ「ウール100%」の中に、
二つの違うものがある。
次の問い
では、そのウールは、羊にとってどんな選択だった?
→ 綿と羊と蚕 ── 服の前に、何がいるか
縮んだウールを戻す話 → クエン酸のこと
→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)
まだ、確かめられていないこと(4)
- 防縮の樹脂(Hercosett)が、着る人に何かするか。測った研究が見つからない
- 服の中に残るエピクロロヒドリンの量。データが見つからない
- 洗濯で膜が剥がれて出るか。業界の調べは「出ない」。独立の調べは無い
- ウール生産者の団体が引く調べの年(2020年と2024年の両方の記述がある)と、資金
分かったら、ここに足していく。
出どころ(6)
- ※1 Hassan, M.M. & Carr, C.M.「A review of the sustainable methods in imparting shrink resistance to wool fabrics」Journal of Advanced Research 18 (2019) 39–60 見る(2026-10-30 確認)
- ※2 Manteco「What is machine-washable wool: 'Superwash'」(業界の解説。約75%の記述) 見る(2026-10-30 確認)
- ※3 Arms of Andes「Superwash Wool: Health Risks…」(アルパカの売り手) 見る/Meridian Mill House「Is Superwash Wool Bad?」 見る(2026-10-30 確認。どちらも売り手)
- ※4 Woolmark「How Wool Can Help Reduce Microplastics」(ウール生産者の団体) 見る/IWTO「The Wool Differential」 見る(2026-10-30 確認)
- ※5 Woolmark「Scouring and Carbonising」 見る/SGS「Insect-resist treatments: permethrin on scoured wool」 見る(2026-10-30 確認)
- ※6 Archroma「Lanasol」(クロム染料の代わり。メーカー) 見る/米国特許 US4670017(クロムの排水) 見る(2026-10-30 確認)