CLOTHING
BPA は、服にも入っている?

缶の内側と、レシートの話だと思っていた。
2017年、靴下から見つかった。
BPA(ビスフェノールA)は、プラスチックの原料の名前。哺乳びんや缶の内側の話として、聞いたことがあるかもしれない。
その BPA が、服にも入っていることが、この10年で分かってきた。いちばん多かったのは、靴下。
このページは、どの服に・どれだけ・なぜ入っているのか、肌から入るのか、洗うと減るのか、法律はどうなっているのかを、分かっていることと分かっていないことを分けて並べたもの。
BPA とは何か
厚生労働省の説明では、BPA は「ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の原料」。
ポリカーボネートは、かたくて透明なプラスチック。エポキシは、缶の内側の塗り。
日本では、食品の器から溶け出す量に基準がある(ポリカーボネート製の器で 2.5 µg/mL まで)。
そして、動物の実験でとても低い量でも影響が出たという報告があり、厚労省は「人への影響はまだ評価の途中。摂る量を減らす配慮をする」という立場をとっている。※1
ヨーロッパの食品安全機関(EFSA)は、2023年4月に「1日にここまでなら」という目安を 体重1kgあたり 0.2 ng(ナノグラム) にした。2015年の目安のおよそ2万分の1。理由は免疫のはたらきへの影響。
ただしこれは食べものからの話で、服の話ではない。※2
研究段階「低い量でも影響があるか」は、機関によって見方が分かれている。確かめられたのは「動物でそういう報告がある」まで。
ng は10億分の1グラム。このページの数字は、布1gの中に BPA が何 ng あるかで書く。
どの服に、どれだけ ── 三つの調べと一つの通告
| いつ・どこ | 何を調べて、何が分かったか |
|---|---|
| 2017年 アメリカ | 服と布もの77点。BPA は82%から出た。平均 366 ng/g。靴下がいちばん多く、平均 1,810 ng/g。最大は 13,300 ng/g で、「97%ポリエステル」の乳児用の靴下だった※3 |
| 2019年 スペイン | 赤ちゃんと幼児(1〜48か月)の靴下32足。BPA は 90.6%から出た。0.70未満〜3,736 ng/g。綿の多い店の靴下のほうが、およそ25倍高かった。靴下から取り出した液に、女性ホルモンに似たはたらきも見つかった※4 |
| 2024年 チェコ | Tシャツと靴下57点(再生素材33・ふつう24。2022年に大手の店で15ユーロ以下で買ったもの)。BPA は 0.05未満〜625 ng/g、BPS は 0.277〜2,474 ng/g。靴下のほうが高め。再生素材のほうが BPA の中央値がほぼ2倍(13.5 と 7.66)。綿が多いほど BPA は少ない傾向※5 |
| 2022年 カリフォルニア | 環境NGO(CEH)が、スポーツブラと運動用シャツを測り、州の法律の「安全の目安」の最大22倍にあたると、ブランドに通告した。見つかったのは「ポリエステルにスパンデックスを混ぜた服」※6※7 |
数字は、ばらばら。同じ「靴下」でも、ほとんどゼロのものから 1万を超えるものまである。
だから「靴下は危ない」とは言えない。言えるのは、入っているものと入っていないものがあって、札では見分けられない、ということ。
科学測った数字はこのとおり。「体にどう影響するか」は別の段。
なぜ、服に?
はっきりした答えは、まだ無い。手がかりは三つ。
①染料と、繊維を安定させる薬の原料。チェコの研究の説明では、BPA は繊維の業界で「染料と、繊維を安定させる酸化防止剤を作るときの中間体」として使われる。※5
②ポリエステル×スパンデックス。カリフォルニアの通告で見つかったのは、ポリエステルにスパンデックス(ポリウレタン)を混ぜた、伸びる服。※7アメリカの2017年の研究で最大だったのも、97%ポリエステルの靴下。※3
③でも、綿でも出る。スペインでは、綿の多い店の靴下のほうが高かった。※4チェコでも、綿100%の服から見つかっている。※5
つまり、繊維の名前では読めない。どこかの工程で入る。それがどの工程かは、まだ突き止められていない。
肌から入るのか
ここは、服を着て測った数字ではない。計算。チェコの研究が、二つの場合で計算している。※5
| 場合 | 計算の結果 |
|---|---|
| 乾いた服 | EFSA の目安(0.2 ng/kg/日)を下回った。例外は1点(再生ポリエステル62%のTシャツ)で、ちょうど目安と同じくらい |
| 汗で濡れた服 | 人工の汗に2時間つけて出てきた量から計算。調べた4点とも目安を上回った。いちばん高いもので、目安の 125〜570倍 |
計算の置き方:皮膚を通る割合を「10%」と「46%」の二通りで置いている。研究者の間で、この割合が決まっていないため。だから結果に幅がある。
限界:汗に2時間つける試験と、計算。着た人の体で測った研究は、まだ無い。
アメリカの2017年の研究も、乳児が靴下から受ける量を計算していて、最大で体重1kgあたり 7,280 pg(=7.28 ng)/日。※3これは EFSA が2023年に目安を変える前の研究で、当時の目安とは比べていない。
乾いた服より、汗で濡れた服。
計算が指しているのは、そこ。
洗うと、減る
チェコの研究は、買ってきた服を一度洗ってみた。30℃の水で1時間、すすぎ30分、赤ちゃん用の洗剤。
一度で、BPA は 3〜7割、BPS は 4〜9割減った(8点中7点で減少)。※5
ぜんぶ落ちるのではない。でも、一度の水で半分ほどになる。
→ 新しい服は、なぜ一度洗うとよい?(ホルムアルデヒドでも同じことが起きる)
法律は、どうなっているか
| どこ | どうなっているか |
|---|---|
| 日本 | 服の有害物質を決める家庭用品規制法の一覧に、BPA は無い(一覧にあるのはホルムアルデヒド・特定のアゾ染料・古い防虫剤・防炎剤・有機水銀と錫)。食品の器には基準がある※1※8 |
| カリフォルニア | BPA を「生殖への毒性」で州の一覧(Proposition 65)に載せ、2016年に固体のものから皮膚を通して受ける量の目安を 1日 3 µg(マイクログラム)と定めた。この目安を超えるおそれがあれば、売る側は表示をするか、中身を変える。NGO が通告を出せる仕組みで、2022年の通告はこれ※9※6 |
| ヨーロッパ | 食べものからの目安を2023年に大きく下げた。※2服についての基準は、このページを書いた時点で見つけていない |
「一覧に無い」は「安全と決まった」ではなく、「その法律では見ていない」の意味。→ 服の加工のこと
誰が金を出したか
2017年のアメリカの研究は、ニューヨーク州の保健局の研究所。2019年のスペインは、公的な医学研究所。2024年のチェコは、国の教育省が支える研究基盤で、試料は研究者が店で買った。※3※4※5
カリフォルニアの通告は環境NGO。測った値の表は、このページを書いた時点で開けなかった(下の「まだ」)。
どれも、服を売る側のお金ではない。そして、どれも数十点の調べ。市場ぜんぶの平均ではない。
TANEの読み
数字を見て、引き出しの靴下を全部捨てる必要はない。
見ているのは順番。肌に直接ふれて、汗をかいて、長い時間着るもの。靴下、肌着、運動の服、寝るときの服。
そこだけ、綿・ウール・絹の割合の高いものを選ぶ。それ以外は、急がなくていい。
化学繊維の運動の服は、便利だし、乾きが速い。使い方を一つ変えるだけでいい。汗をかいたら、着たままにしない。そして、新しい服は一度洗ってから着る。
化学繊維の靴下は、まだ百年たっていない。→ その服は、何からできている?
やってみる
靴下の引き出しを開けて、札を見る。
「ポリエステル」「ポリウレタン(スパンデックス)」の割合はいくつか。綿やウールが主のものは何足あるか。
次に一足買うとき、綿かウールが主のものにしてみる。
いまある靴下は、そのまま履いていい。
肌にいちばん近い一枚から、順番に。
全部でなくていい。
次の問い
では、化学繊維の服を洗うと、何が出ていく?
→ 洗濯した繊維は、どこへ行く?
→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)
まだ、確かめられていないこと(7)
- 服を着て、汗を通して BPA がどれだけ体に入るか。人で測った研究が見つからない(人工の汗につける試験と計算まで)
- 日本で売られている服の BPA の実測。見つかった研究はアメリカ・スペイン・チェコ
- BPA がどの工程で服に入るか(染料か、酸化防止剤か、再生の工程か)。研究も「可能性」までしか書いていない
- BPS(BPA の代わりに増えている)の体への影響。研究はまだ少ない
- EFSA の新しい目安に、ドイツの機関が異を唱えたという報道があるが、その原文を確かめていない
- CEH の通告の原文と、ブランドごとの測った値。CEH のページが開けなかった(業界の記事2本から書いた)
- カリフォルニアの目安(1日 3 µg)の施行日と、BPA を一覧に載せた日(2015年5月11日・2016年10月1日と検索の抜粋にある)。州の提案文書(2016年3月)は開けたが、施行の告示は開けなかった
分かったら、ここに足していく。
出どころ(9)
- ※1 厚生労働省「ビスフェノールAについてのQ&A」2008年7月(ポリカーボネート・エポキシ樹脂の原料/食品の器の基準 2.5 µg/mL/低い量での動物の報告/摂取を減らす配慮) 見る(2026-10-30 確認)
- ※2 EFSA(欧州食品安全機関)「Bisphenol A in food is a health risk」2023-04-19(TDI 0.2 ng/kg体重/日・2015年の 4 µg からおよそ2万分の1・免疫への影響) 見る(2026-10-30 確認)
- ※3 Xue J, Liu W, Kannan K「Bisphenols, Benzophenones, and Bisphenol A Diglycidyl Ethers in Textiles and Infant Clothing」Environmental Science & Technology 51(9) 2017(77点・BPA 82%・靴下 平均 1,810・最大 13,300 ng/g・乳児の経皮 最大 7,280 pg/kg/日。ニューヨーク州保健局) 見る(2026-10-30 確認・抄録)
- ※4 Freire C ほか「Concentrations of bisphenol A and parabens in socks for infants and young children in Spain and their hormone-like activities」Environment International 127, 2019(32足・90.6%・0.70未満〜3,736 ng/g・綿の多い店で約25倍・エストロゲン様の活性) 見る(2026-10-30 確認・抄録)
- ※5 Jurikova M, Dvorakova D, Bechynska K, Pulkrabova J「Bisphenols in daily clothes from conventional and recycled material: evaluation of dermal exposure to potentially toxic substances」Environmental Science and Pollution Research 31, 2024(57点・BPA 0.05未満〜625・BPS 0.277〜2,474 ng/g・洗いで BPA 30〜70%減・乾いた服は目安以下、汗で濡れた計算は超える。チェコ教育省の研究基盤) 見る(2026-10-30 確認・本文)
- ※6 Just Style「CEH finds BPA in sports bras, activewear」2022-10-20(通告・最大22倍・ポリエステル+スパンデックス・ブランド名) 見る(2026-10-30 確認)
- ※7 HQTS「California Proposition 65: Several Brands Received a 60-Day Notice for BPA in Sports Bras and Athletic Shirts」2022-11-12(ポリエステルにスパンデックス・皮膚からの吸収・60日) 見る(2026-10-30 確認)
- ※8 家庭用品規制法(有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律)の有害物質の一覧 見る(2026-10-30 確認。一覧に BPA は無い)
- ※9 カリフォルニア州 OEHHA「Initial Statement of Reasons ── Maximum Allowable Dose Level for Bisphenol A (Dermal Exposure from Solid Materials)」2016年3月(Title 27 §25805(b)・固体のものからの皮膚曝露の目安 1日 3 µg・「固体」は紙やプラスチックなど) 見る(2026-10-30 確認・PDF の1枚目)