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CLOTHING

その色は、何で染めた?

窓辺の、からし色のリネンのワンピース

藍は、葉を3か月くさらせて作る。
紫は、1856年に18歳の学生が、薬を作りそこねて見つけた。

服の色は、繊維の色ではない。あとから付けた色。
何で付けたかは、札に書いていない。「綿100%」の綿は白いので、青いシャツの青は、ぜんぶ染料。

このページは、草木で染める方法と、石炭や石油から作った染料で染める方法が、何がちがって、何が同じなのかを並べたもの。どちらが正しい、ではなく。

草木の色 ── 阿波の藍

徳島の藍は、こう作る

藍の葉を刻んで乾かし、水を打ちながらおよそ3か月 発酵させる。できるのは「すくも」という、強いにおいのする染料のもと。
すくもを、ぶどう糖の液と酒かふすまに混ぜて、温度を見ながらさらに1週間ほど発酵させる。布をその液に何度も浸けると、浸けるたびに青が一段ずつ深くなる。※1

藍は室町時代に阿波(いまの徳島)に伝わったとされる。吉野川がよく氾濫する土地は米に向かず、藍に向いた。江戸時代に木綿が広まると、藍の需要は全国に広がった。
栽培は1903年に最高になり、そのあと海外から安い合成の染料が入って、減っていった。※1

1870年代に日本を訪れたイギリスの化学者アトキンソンが、この青を「ジャパン・ブルー」と呼んだ。※1

草木で染めるというのは、こういう時間のかかること。葉を3か月、液を1週間。そのあと何度も浸ける。

石炭の色 ── 1856年の偶然

18歳の学生と、紫

1856年、ロンドンの化学の学校の18歳の学生ウィリアム・パーキンは、春休みにマラリアの薬(キニーネ)を作ろうとして失敗した。できたのは、石炭のタール(コールタール)から生まれた紫の色素。
これが、売り物になった最初の合成染料「モーブ」。翌1857年、彼は工場を建てた。※2

それから41年。1897年、ドイツの BASF が、藍の色を人工で作った「インディゴ・ピュア」を売り出した。17年の研究と、当時の会社の資本金を超える 1,800万金マルクをかけて。※3

徳島の藍の栽培が1903年を最高に減っていったのと、合成の藍が1897年に出たのは、同じ出来事の表と裏。※1※3

合成染料の何がよかったか。速い。安い。色が揃う。いつでも同じ色が出る。3か月の発酵が要らない。だから世界の服のほとんどが、いまこちらで染められている。

歴史年は資料のまま。「世界の服のほとんど」は割合の出どころを置けていない。業界の一般的な理解として書いた(下の「まだ」)。

草木染めにも、金属がある ── 媒染

ここが、このページでいちばん伝えたいところ。

草木の色素は、そのままでは布、とくに綿に染まりにくい。それを助けるのが「媒染(ばいせん)」。
山口大学の紀要の説明では、媒染剤は「繊維と色素を結びつける仲立ち」で、アルミニウム・鉄・銅・スズ・クロムなどの金属イオンがその働きをする。金属が繊維と色素の両方に結びついて、色を固定する。同時に、色も変わる。同じ葉でも、ミョウバンなら明るく、鉄なら黒っぽく。※4

昔から使われた媒染剤は、椿の灰(アルミニウム)、ミョウバン(アルミニウム)、おはぐろ(鉄)、石灰(カルシウム)、灰汁。
いまは、硫酸アルミニウム・塩化第一鉄・硫酸銅・酢酸クロムなどの試薬で媒染することが多い、とある。※4

つまり、「草木染め」と書いてあっても、何で媒染したかで中身がちがう。椿の灰か、クロムか。札には書いていない。
「草木染」という言葉そのものは、1930年(昭和5年)に合成染料と区別するために付けられた名前。※4天然か合成かの線は、そのときに引かれた。

→ 濃い色のウールとクロムのことは ウールが縮まないのには、理由がある

「草木染め」の札は、色素のこと。
媒染の金属のことは、書いていない。

染料と肌

皮膚科の調べで、服のかぶれの原因の上位に出てくるのは、繊維ではなく化学繊維用の染料(分散染料)と、形態安定の樹脂。数字は別のページに置いた。→ 衣服とかぶれ ── 素材か、加工か

日本では、2016年4月1日から、特定の芳香族アミン(24種類)を生じるアゾ染料が、肌に直接ふれる繊維製品で規制されている。下着・寝衣・靴下・手袋・タオル・寝具など。ただし「すべてのアゾ染料が対象ではない」。※5

規制があるのは、その染料が壊れて出てくるアミンに問題があったから。だから新しい服は、一度洗ってから着る。色落ちの確かめにもなる。

何がちがって、何が同じか

見るところ草木 / 合成
色のもと葉・根・実・虫 / 石炭や石油から作った化合物※2
時間藍なら葉に3か月・液に1週間※1 / 工場で一度に
色の数と揃い土地と年で揺れる / いつでも同じ色。色の数も多い
金属媒染で使う(アルミ・鉄・銅・クロムなど)※4 / 染料の種類による。ウールの濃い色にクロムを使う染料がある
肌どちらも「染料しだい」。皮膚科の上位は分散染料と樹脂
札で分かるかどちらも、何で染めたかは書いていない。「草木染め」も媒染は書いていない

線は「天然か合成か」のところには引けない。引けるのは、何を使って、何が残ったかのところ。

TANEの読み

藍の畑と、3か月のすくもと、何度も浸ける手。その時間を知ると、青いシャツの見え方が変わる。
それは合成染料を悪く言うためではない。色には、作った時間があることを知るため。

選ぶときに見るのは、「天然」の二文字ではなく、肌にふれるものかどうか。肌着と寝具と靴下は、生成り(染めていない)か、薄い色。濃い色は、一度洗ってから。

やってみる

玉ねぎの皮を一握り、水で20分煮出す。白い綿のハンカチを入れて10分。
取り出して、ミョウバン(漬物用)を溶かした水に5分つける。黄色が、はっきりする。

これが媒染。台所で、一度だけやってみると、「草木染め」の札の中身が分かる。

色には、作った時間がある。

次の問い

では、染料や加工は、札の印で分かる?
→ 衣服の認証、何を見ればいい?

→ 衣服を知る(衣の章のはじめへ。素材 → 加工 → 肌 → 水と土 → 選ぶ・洗う)

まだ、確かめられていないこと(5)
  • 世界の服のうち合成染料で染められている割合。「ほとんど」と書いたが、数字の出どころを置けていない
  • 染めの排水が世界の工場排水に占める割合。「2割」という数字がよく引かれるが、原典を見つけていないので書かなかった
  • 媒染の金属(アルミ・鉄・銅・クロム)が、着ているときに肌へ出るかどうか。測った研究を見ていない
  • 合成の藍が出たあと、日本の藍の栽培面積がどう減ったかの数字
  • 玉ねぎの皮とミョウバンの手順の、公的な出どころ。家庭科の実践として広く行われているが、ここでは TANE の手順として置いた

分かったら、ここに足していく。

出どころ(5)
  1. ※1 国土交通省 観光多言語解説文データベース「Aizome (Indigo Dyeing)」徳島(室町時代に伝来・吉野川の氾濫と藍・木綿と全国の需要・すくも=約3か月の発酵・1903年が最高で合成染料の輸入で減少・アトキンソンの Japan Blue・ぶどう糖と酒かふすまで1週間・何度も浸ける) 見る(2026-10-30 確認)
  2. ※2 Science History Institute「The Story of Mauve」(1856年・18歳のパーキン・キニーネを作ろうとして・コールタール・最初の商業的な合成染料・1857年に工場) 見る(2026-10-30 確認)
  3. ※3 BASF「1897 / Indigo Pure BASF」社史年表(17年の研究・1,800万金マルク・当時の資本金を超える・1890年の特許証) 見る(2026-10-30 確認)
  4. ※4 星野裕之・亀川佳奈・錦木香奈「貝殻・卵殻・エビ殻を利用した草木染の試み ── 色味変化に着目して」山口大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 39, 2015(媒染の定義・アルミ/鉄/銅/スズ/クロムの金属イオン・昔の媒染剤=椿灰・ミョウバン・おはぐろ・石灰・灰汁・いまは硫酸アルミ/塩化第一鉄/硫酸銅/酢酸クロム・「草木染」の名は昭和5年 山崎斌) 見る(2026-10-30 確認・PDF の1枚目)
  5. ※5 厚生労働省「平成28年4月1日から家庭用品規制法における特定芳香族アミンを容易に生成するアゾ染料の規制が始まります」(24種類・対象の繊維製品と革製品・直接肌に接触する部分・すべてのアゾ染料ではない) 見る(2026-10-30 確認)